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[コラム] パーキンソン病の発症が腸内環境と関係があるって知っていますか?

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パーキンソン病は原因不明の難病です。中脳の黒質という部分のドーパミン神経の脱落が原因とされていますが、まだその原因は明確には分かっていないません。現時点では、病気の進行を防ぐ治療法は無く、今後の病因の究明が重要です。
その発症に腸内環境の炎症が関連しているという研究がありますが、あまり知られてはいません。
今回は、パーキンソン病を例にとって、身体の炎症と病気の関係、そして予防医学の考え方について説明します。

パーキンソン病とは

パーキンソン病とは、アルツハイマー病について2番目に多い、進行性の神経変性疾患です。高齢になると発症の確率が高まる、運動機能に障害の出る病気です。主に筋肉のこわばりや手足の震えが起こり、動くのが困難になり、寝たきり・介護の原因となります。

症状の出始めは、手足の震えやこわばりが起こってきます。身体の片側から始まり、次第に反対側にも広がっていくという特徴があります。進行はゆっくりであることが多いため、気が付かないうちに病気が進んでいくということがあります。また、一度発症してしまうと根本的な治癒は見込めず、対症療法的に症状の進行を防ぐことができるだけです。

パーキンソン病の症状と原因

パーキンソン病の代表的な身体的症状は、以下の4つです。

・手足のこわばり(力をうまく抜けず身体が動かなくなる)
・手足の震え(安静時でも手足の震えが止まらない)
・姿勢反射(身体のバランスが取れず転びやすい)
・無動、寡動(動けなくなる、最終的には介護が必要になる)

また、身体機能以外にも症状は現れます。

・精神症状(投薬の副作用の可能性もあるが、うつ病や幻覚、妄想が現れるケースもある)
・自律神経症状(乱れると発汗異常や、排せつ機能の異常が出てくる)
・睡眠障害(神経伝達物質のバランスも崩れるため、不眠が引き起こされることがある)
・認知機能障害(記憶力、判断力が低下し、認知症に似た状態になりやすい)

このようなパーキンソン病の症状は、一般的には中脳の黒質という部位のドーパミン神経が脱落し、なくなってしまうことによって引き起こされるとされています。ドーパミン神経は、「黒質」にドーパミンを供給していますが、その機能が停止することにより、ドーパミンが不足してしまうのです。

パーキンソン病の原因はいまだはっきり分かっていません。
そのため「これぞ」という予防法や対症方法も見つかっておらず、患者さんは生活を工夫し、悪化しないように苦労を重ねています。

パーキンソン病治療への新しいアプローチ

パーキンソン病の発症に、腸内環境で起こっている「炎症」が関係しているという研究があります。

Journal of Neurogastroenterology and Motility

参考:Journal of Neurogastroenterology and Motility

上記は「Journal of Neurogastroenterology and Motility」というアメリカの雑誌ですが、その中に「パーキンソン病:腸の異常症(ディスバイオーシス)、抗生物質、プロバイオティクス、および糞便微生物叢移植の新たな役割」という文献があります。これまでのパーキンソン病についての137文献をまとめたレヴューです。
(引用先:http://www.jnmjournal.org/main.html)

一般の方の目に触れることは少ない、かなりマニアックな雑誌ですが、要点はパーキンソン病などの神経の変性疾患と思われていた病気は、実は活性酸素や炎症性サイトカインから引き起こされる「炎症」にその原因がある、という内容です。

以下、アブストラクトの要点を見て行きましょう。

<アブストラクト日本語訳>

・マイクロバイオーム(訳者註: 「腸管フローラ」とほぼ同義)の健康と病気における役割は、21世紀における最新の医学で明らかになった。過去2世紀に渡る研究から以下のようなことがわかってきた。
炎症を引き起こす酸化障害と炎症性サイトカイン(訳者註:私達の体に炎症を起こす内因性物質)はパーキンソン病(PD)と関連した神経障害において、重要な役割を果たしている可能がある。

・炎症性サイトカインとT細胞浸潤の存在は、PD患者の脳実質で観測されてきた。さらに炎症性変化が起こっている証拠が迷走神経枝・グリア細胞・腸神経系で報告されてきた。

PD患者の死後脳の生検で、αシヌクレインの沈着が見られており、PDの発症において、「炎症」が関与していることが実証された。

αシヌクレインのミスフォールディングは腸から、迷走神経経由で下部脳幹を経由して、最終的に中脳まで「プリオン様」に広がり、(炎症を起こす)ものと考えられてきた。そしてこれがアルツハイマー病の原因になるとして考えられる。(訳者註:プリオンはアルツハイマー病で脳内に見られる物質。このプリオン様物質が腸管から脳内に移行するという考え方はBraak仮説と言われる。有名な仮説。)

腸内フローラのバランスの乱れ、そしてリーキーガットは、PD病が臨床的に症状を呈するよりも、数年も前から観測されていると言う事実は注目すべきだ。

遺伝子(αシヌクレインの過剰発現)と環境(腸内ディスバイオシス)の役割はPD病の原因になると言う事を論証した。これらの臨床観察はマウスの生体外実験でも実証されている。PD病患者の腸内マイクロバイオームを元の状態に復元する事は、PD病の予後を変える可能性がある。このような臨床的な介入が臨床的に有益である事を証明する為には、それを目的として組成されたプロバイオティクスとFMT(糞便移植 訳者註)を用いた研究を入念に計画する必要がある。

「炎症」といわれてもピンとこない方も多いと思いますが、簡単にいうと、すべての病気は体内の炎症が原因であり、その火を消さないと、病気を根本的に治せないという考え方です。

パーキンソン病の場合は、脳内の炎症がαシヌクレインという物質の沈着を起こし、それが原因になって脳の神経細胞が変性する、とイメージしていただければよいでしょう。そして、「炎症」が腸管から脳に波及しているという事を証明するいくつかの根拠があるという事です。

炎症とリーキーガットとの関連性

ここで大切なのは、脳内で起こる「炎症」と、腸内で起こる「炎症」がもつ、密接な関係性です。
文献内では「リーキーガット症候群」についても触れられています。
腸壁に穴があき、異物が血中に流れ出す「リーキーガット症候群」は、欧米の医学界では決して特別な病気ではありません。リーキーガットが「炎症の火元」だという認識は、論文にも広く取り上げられ、さまざまな病気との関連性が語られています。
最近では、脳の炎症は「リーキーブレイン」と言われ、「リーキーガット 」と密接な関連性があるということが言われ、盛んに議論されています。
しかし、残念ながら日本の医療現場では、「リーキーガット 」や「リーキーブレイン」という言葉を知っている医療関係者自体がまだまだ少なく、そこまで議論されていることは少ないのが現状です。

炎症予防がパーキンソン病を予防する?

PD病の発症機序については、まだまだ研究が必要ですが、腸からの炎症が脳の炎症を誘発し、それが原因で、αシヌクレインという物質が脳内に沈着し、神経に変性を起こすという機序は非常に魅力的に思えます。
パーキンソン病をはじめとする、未だ原因が不明とされる病気を防ぐには、身体に「炎症」が起こりにくくする、「抗炎症治療」について知ることが大切です。
たとえば脳梗塞や心筋梗塞。
これらの病気の原因である動脈硬化が「炎症」によって引き起こされていることは、循環器の専門医であれば誰でも知っていることです。また、大枠で語れば、ガンの原因も「炎症」ということができます。

私たちが恐れるすべての病気は、身体に炎症が起きないような予防的な対処をすることで、その発症率を抑える可能性があるのです。

「抗酸化治療」、「抗炎症治療」はこれからの予防医学の発展に重要な手がかりを与えてくれるものだと思います。

もちろん、まだまだ研究を積み重ねる必要はあります。しかしこの分野は、今から急速に発展する領域であることは間違いがありません。
当院でも、体のバランスを整えるという立場から、分子栄養学、機能性医学に基づいた治療法をご提案しています。

まとめ

神経の変性疾患と思われていたパーキンソン病などの難病が、近年の研究で脳の炎症が関係していると報告されていることを解説しました。
そして身体の炎症を抑えることは、難病だけではなく身近な病気予防にもつながります。心身を健康に保ち、病気を予防するためにも、炎症の起きにくい身体作りを意識した「予防医学」に取り組んでいくことが大切です。

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