私が最初にPATMの患者さんを診察してから、7−8年が過ぎました。
これまでは、「とんでも」の代表だと思われていた病態ですが、少しずつ認知される様になり、いくつかの病院では、PATMの患者さんの診察をしてくれるところも出てきている様です。
しかし、その一方では、「PATMは存在しない」みたいに、どこからその自信が出てくるのか分からないくらい、不可解な意見も相変わらずみられます。
このように、「絶対あり得ない」みたいな意見を持つ人は、おそらくは、自分の理解できないことは全て「存在しない」ということなのでしょう。ある意味では、そういう凝り固まった考え方自体が、「あり得ない」と私には思えてきます。
では、エビデンスがあるのかということについて、最新の知見がありますので、ご紹介します。
PATMの病態に近づくための検査としては、「皮膚ガステスト」というのがあります。皮膚の表面からどんな化学物質が出ているかを調べることのできる検査です。
今回、PATMの皮膚ガステストでの結果をまとめられた関根先生が、Natureにその結果を発表されました。
Human skin gas profleof individuals with the people allergic to me phenomenon
(https://www.nature.com/articles/s41598-023-36615-1)
内容を簡単にいうと、PATMの人はそうでない人と比べてもどうもトルエンが出ている割合が高いというものです。これをきちんとコントロール試験で証明しているというのが大きなミソです。
なんといっても天下のネイチャーですからね。これで、単に、「とんでも」ではないということを誰も否定することはできないのではないかと思います。
以前、テレビの取材で私が「PATMの患者さんはトルエンが出ていることが多いと思う」と当時の印象を話した時に、「そんな、人間の体からトルエンなんて出るはずがない」といって頭から否定した「医療界の常識家」みたいな人がいましたが、これで晴れて汚名が晴らされたかと思います。(苦笑)
もっと酷いのは、「あの医者はありもしない病気を見て、自費診療で高い金を取っている」みたいなことを言う「常識家の先生」もいました。
PATMの患者さんは、PATMの病態を認めてくれない医療関係者があまりにも多くて、精神的な苦しみを感じておられる方がたくさんいます。病気の症状だけではなく、「理解してもらえない」という苦しみが加わるのです。
医療関係者は、自分のこれまでの常識にとらわれるのではなく、もっと謙虚に「科学的な姿勢」を身に助ける方がいいと思います。
もちろん、PATMの病態はこれだけではなく、私は腸内環境も関係しているかと思っていますが、少なくとも、医学のまな板の上に載せるべき病態であるということは明らかになったのではないかと思います。何しろネイチャーに載ったくらいですからね(笑)
添付した図は、あるPATMの患者さんの皮膚ガステストの結果です。トルエン以外にもたくさんの有機化学物質がコントロール群よりも大量に排出されていることがわかります。決して、トルエンだけの問題ではないのです。PATMの病態解明はまだ始まったばかりだと言えます。
執筆者プロフィール
医療法人全人会理事長、総合内科専門医、医学博士。京都大学医学部卒業。天理よろづ相談所病院、京都大学附属病院消化器内科勤務を経て、2013年大阪市北区中津にて小西統合医療内科を開院。2018年9月より医療法人全人会を設立。