起立性調節障害は、10代に多く、特に高校生にとっては、学業や生活に大きな影響を与える症状です。
しかし、病院へ行っても「ストレスが原因」「気のせい」などといわれ、根本治療への手がかりがつかめない患者さんが後を絶ちません。
起立性調節障害の症状があらわれている以上、身体の中では「何か」が起きています。その原因を探り、具体的な改善をしていくにはどうしたらいいか、またどのような検査が必要なのかを解説します。
起立性調節障害(OD)とは
起立性調節障害とは、自律神経の働きがアンバランスになる病気です。
その結果、立ち上がった時に脳血流や全身への血行が維持されなくなり、立ちくらみやふらつきが起こります。血流が悪くなると、酸素や栄養の供給も悪くなります。そのためすぐに疲れたり、思考低下を招くのです。
起立性調節障害は、思春期に起こりやすい症状です。
特に10歳〜16歳での発症が多く、中学生では約10%が起立性調節障害だといわれています。
自律神経のバランスが自然に整った場合、気が付いたら改善していた…というケースもありますが、大人になってもよくならないことも多いのです。
受験や人間関係でストレスを受けやすく、もともと自律神経のバランスを崩しやすい年代でもあるため、やっかいです。
高校生の起立性調節障害のつらさ
起立性調節障害で、午前中に調子が悪いことが多いのは、脳に十分に血液が通っていないからです。
高校生の場合は、午前の授業に集中できず成績が下がったり、保健室に通う頻度が上がったりします。また朝のリズムが整わないことで不登校の原因にもつながります。
特に朝起きれず、決まった時間に通学できないことが続くと、周囲からは怠け者・自己管理ができていない…と見られがちです。特に学校や先生から「サボリ病」だと思われてしまうと、十分なサポートを受けられず、通学への負担が大きくなります。
また、症状を家族に理解してもらえない場合はさらにストレスが増し、症状が悪化していきます。
頭痛・生理痛・めまい・手足の冷え・腹痛・吐き気・倦怠感など、さまざまな症状が一緒に引き起こされることも多くあります。
その結果生活や学業に大きな負担を感じ、つらい状態のまま高校時代を過ごさなくてはなりません。
起立性調節障害のチェックリスト
以下のチェックリストに3つ以上当てはまる場合、起立性調節障害の可能性があります。
1 立ちくらみやめまい
2 起立時の気分不良や失神
3 動機や息切れ
4 朝起きられず、午前中に調子が悪い
5 顔色が青白い
6 全身に倦怠感がある
7 食欲不振がある
8 頭痛がある
9 乗り物酔いをしやすい
10 夜になかなか寝付けない
11 イライラ感や集中力の低下
上記の症状は、「体力不足」「気のせい」で片づけられやすいものばかりですが、起立性調節障害に関係しているならば、立派な病気です。まずは正しく理解しましょう。
起立性調節障害の治療の問題点
起立性調節障害の一般的な治療では、非薬物療法(生活習慣の改善など)、薬物療法(漢方薬など)が行われます。
軽度なら、これらを実践することで改善するでしょう。
しかし、高校生が倦怠感を理由に診察を受けに行っても、思春期特有の一過性のものとみなされるか、対症療法として血圧を上げるような治療をされて終わることも、多くあるのが事実です。
起立性調節障害が自律神経の問題であることは分かっています。しかし、自律神経のアンバランスを整える特効薬はありません。だからこそ、その場しのぎの対応が中心になってしまいます。
そして、残念ながら、思春期に起立性調節障害だった人の4割が、成人後も日常生活に支障をきたす何らかの症状をもって生活をしている、といわれているのです。
起立性調節障害を根本から治療しようと思うなら、根本的な原因を調べるために検査を行う必要があります。そのうえで、「病気になるプロセス」に沿った治療を行い、改善を目指さなくてはいけません。
起立性調節障害の原因と検査
根本治療への第一歩は、まずは「知ること」です。
「どうしてか、朝起きれない」という症状の原因を、「自律神経のバランスが崩れている」という大きな枠だけで見ている限り、改善は見込めません。
そうではなく、身体の中で何が起きているのか、どうして自律神経のバランスが崩れているのかを可視化し、総合的な観点から治療を行うことが求められています。
原因は必ずある
起立性調節障害の根本原因として、「副腎疲労」「リーキーガット症候群」「カンジタ菌症」「重金属の蓄積」などが考えられます。
これらは一般的には「腸内環境を整える」という言葉でひとくくりにされがちですが、ひとつひとつを紐解き、具体的に改善していくことは、自律神経という全身に関係する機能のバランスを調整するためには、とても大切です。
たとえば、起立性調節障害だけではなく、一般的な病院では原因が特定できない慢性疾患を抱えている患者さんは、デトックス機能が低下しているケースが見受けられます。
これは体内に蓄積された重金属を、スムーズに排出できない身体になってしまい、身体のいたるところに悪影響が出ている状態です。
また、遅延型フードアレルギーを併発している方も多くいらっしゃいます。
遅延型フードアレルギーは、アレルゲンとなる食べ物を食べてから、数時間〜数週間をかけて症状が出てくるため、自分ではなかなか気が付きません。しかし遅延型フードアレルギーの治療を進めると、起立性調節障害も一緒によくなっていった…というケースは、少なくありません。
副腎疲労
また、副腎疲労の状態では、どんな対症療法を行っても、起立性調節障害は改善しにくいといえます。
副腎からは、身体にかかるストレスから守ってくれるコルチゾールというホルモンが分泌されています。しかし過剰なストレスがかかるとコルチゾールが正常に分泌されなくなり、副腎疲労という状態になり、身体のバランスが崩れてしまいます。
副腎疲労の状態を知るには、「唾液中コルチゾール検査」を行います。そのうえで適切な治療を行うことで、起立性調節障害が改善したというケースも、たくさんあるのです。
起立性調節障害を改善するには、複合的な原因を探ることが大切です。
決して気のせいでも一過性のものでもなく、体内で起きている何らかのエラーが原因であることを知り、具体的な対処方法を探っていきましょう。
まとめ
全国には100万人以上の起立性調節障害の方がいるといわれています。
そして高校時代という、人生の中でもとても重要かつ楽しい時期に、学校に行けない・つらい思いを抱えて生きている、という患者さんがいることを、周囲も理解し、正しい治療ができる環境を整えなくてはいけません。
まだまだ正しい認識がされていない起立性調節障害ですが、何十年も悩む前に、根本解決への手がかりとしての検査を受けてみることをおすすめします。
執筆者プロフィール
医療法人全人会理事長、総合内科専門医、医学博士。京都大学医学部卒業。天理よろづ相談所病院、京都大学附属病院消化器内科勤務を経て、2013年大阪市北区中津にて小西統合医療内科を開院。2018年9月より医療法人全人会を設立。