どんなに睡眠時間を取っても、ゆっくり休んだ気になれない、原因不明の疲労感が続き、何ごとにもやる気が出てこない。
このような症状があって診断を受けても、大きな病気は発見されないという場合、そのダルさは副腎疲労からきているかも知れません。
副腎疲労は、正式な「病名」ではありません。しかし近年、さまざまな慢性病の原因可能性が指摘され、個々が副腎をケアすることの重要性が知られはじめてきました。
副腎疲労とは
副腎は、腎臓の近くにあるとても小さな臓器で、さまざまなホルモンを分泌し、生体を維持している器官です。
副腎からは別名ストレスホルモンと呼ばれる多種多様なホルモンが分泌され、ストレスに対する耐久力を高める働きをしてくれています。
ストレスは、精神的なものに限りません。生活音や満員電車などの毎日の負荷がじわじわと溜まることもありますし、食品添加物や環境汚染物質の蓄積や、気候・生活環境によるものも含めて、副腎はストレスと受取ります。
その結果、ストレスホルモン「コルチゾール」が過剰に分泌され続けると、副腎に負担がかかり、分泌量のバランスが崩れてストレスに対抗できなくなってしまいます。
この状態を、「副腎疲労(アドレナル・ファティーグ)」というのです。
副腎疲労で現れる症状
・常に疲れを感じ、何をするにもおっくうになる
・朝起きれない、起きた瞬間から疲れを感じる
・寝付きが悪い、睡眠の質が下がり、熟睡できなくなる
・集中力が低下する、物忘れがひどくなる
・新しいことの取り組む元気が湧かない
・風邪を引きやすくなる
これらの症状を、単に「疲れているから」と軽視してはいけません。生活習慣を改善したり、ゆっくり睡眠を取ったりという基本的な改善に加え、副腎が正しく機能するように、気を配る必要があります。
副腎疲労を回復させる食事
では、副腎から分泌されるホルモンを正しくコントロールするにはどうしたらいいのでしょうか。カギは食事です。さまざまなホルモンの原材料となる栄養素を、適切に摂り込むことが大切なのです。
同時に副腎に負担をかける食べ物を避け、これ以上疲れないようにしてあげる必要もあります。
まずは環境汚染物質のデトックスを助ける
副腎疲労の原因に、体内に蓄積される有害物質や重金属があげられます。
そもそも体内に入ったそれらの有害物質は、肝臓からデトックスされますが、現代の食生活では肝臓機能も落ちがちなため、まずは肝臓の機能を高めてくれる食材を食べることをおすすめします。
・玉ねぎ、にんにく、パクチー、生姜などの薬味
・フレッシュなハーブ野菜
・色が濃く、苦みのある野菜
特に緑黄色野菜には抗アレルギー作用・抗酸化作用があります。
ミネラルとビタミンBをしっかり摂る
副腎疲労の人はビタミンB群・ミネラル・カルシウムが不足しているといわれます。
副腎がうまく働かないと、腸にも影響が出てしまい、副腎疲労の回復に必要なカリウムやナトリウムなどの吸収率も落ちてしまいます。
・海藻、海苔、魚介類でミネラルや亜鉛を補う
・チーズ、小魚などからカルシウムを補う
・豚肉、玄米からビタミンBを摂る
ビタミンB群やミネラルが不足すると、メンタル不調につながりやすくなります。
身体によい、オメガ3脂肪酸を積極的に摂る
オメガ3は体内でつくることができないため、食事から補う必要があります。そのため必須脂肪酸ともよばれ、健康において大きな役割を担っています。
・サンマやアジ、イワシなどの青魚
・エゴマ油、アマニ油など、αリノレン酸が含まれる植物油
特に魚に含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)は、脳の重さの約8%を占めるといわれており、「魚を食べると賢くなるよ」といわれる理由にもなっています。
良質なタンパク質、脂質
お肉は健康の敵のようなイメージを持たれていますが、実は逆。
動物性タンパク質には、「メチオニン」というアミノ酸が含まれています。
メチオニンは必須アミノ酸なので、自分の体内だけでは必要量をつくり出すことはできないため、食べ物から摂取する必要があるのです。
メチオニンで大切なのは、硫黄を含んでいるということです。
硫黄はグルタチオンという解毒酵素に関係しており、必要なだけの硫黄がないと、デトックス機能の低下が起き、副腎の働きも弱ってしまうのです。
動物性タンパク質には、メチオニン以外にも多くの必須アミノ酸が含まれているため、バランスよく食べることで、副腎はもちろんのこと全身の健康維持に役立ちます。
控えたい食材
副腎を疲れさせてしまう食べ物もあります。
・食品添加物、化学合成物質
・副腎を刺激するアルコール、カフェイン
・白砂糖、スイーツ
・食品添加物の多いジャンクフード
また最近では、小麦・大麦などに含まれるグルテンを控える風潮も広がっています。
実際グルテンに過敏な人が、そうとは知らずに毎日パンを食べることが続くと、副腎に負担がかかりっぱなしになってしまいます。
ただしこれもバランスの問題。完全に減らしたからといって、副腎が元気になるかというとそうもいえませんし、体内環境には個体差が大きいからです。
上記の食材を食べていいかどうかは自分の体調・体質に合わせること、そして適切な量であれば、問題の起きない身体をつくることを優先する必要があります。
副腎は健康維持のかなめとなる臓器
副腎疲労が改善されると、身体には良い影響があらわれ始めます。
ストレスホルモン「コルチゾール」は、対ストレスだけではなく血圧・血糖値をコントロールし、免疫機能を高める役目も担っています。
そのため分泌バランスが正常になれば、メンタルも安定し、脳血管疾患や心疾患などの生活習慣病を予防する働きが期待できます。
女性でPMS(月経前症候群)や更年期障害に悩んでいる方がいますが、副腎は性ホルモンも分泌しています。副腎疲労の改善は、婦人科疾患にも役に立つのです。
まとめ
健康意識が高まるにつれ、副腎疲労というキーワードはこれからどんどんメジャーになっていくでしょう。
自分の体内は目に見えませんが、食事から摂る栄養素が要であることは明白です。慢性的な疲労、原因不明の体調不良が続いているなら、まずは食生活を見直してみてはいかがでしょうか。
執筆者プロフィール
医療法人全人会理事長、総合内科専門医、医学博士。京都大学医学部卒業。天理よろづ相談所病院、京都大学附属病院消化器内科勤務を経て、2013年大阪市北区中津にて小西統合医療内科を開院。2018年9月より医療法人全人会を設立。