ストレスホルモン「コルチゾール」と副腎の関係
コルチゾールは、副腎皮質から分泌されるホルモンの一種です。
心身がストレスを受けると、急激に分泌が増えることから、「ストレスホルモン」とも呼ばれています。
コルチゾールの分泌過多は、ストレスから身を守ろうとして起きる現象です。瞬間的な量の増加に問題はありませんが、長期的なストレスにさらされることで、脳の海馬を委縮させることが分かっています。
さらにコルチゾールの分泌は、免疫系・中枢神経系・代謝系など、身体のさまざまな機能に影響を及ぼします。
それはたとえば、うつ病患者のコルチゾール値が高いことなどからも分かります。つまりコルチゾールは、ストレスと心身の健康状態を結びつける、大切なホルモンなのです。
コルチゾールとストレス
現代社会で、ストレスと無縁の人はいないでしょう。
会社や家庭、人間関係、そのレベルに差があっても、心身に何らかの負荷がかかるのは、生きている限り仕方ありません。
しかしストレスを受けることが慢性化し、病気やメンタル悪化につながることを、「仕方ない」と放置もできません。
ストレスは、心に影響するだけではなく、肉体にも具体的な変化を与えます。
たとえば、プレゼンや舞台など緊張する場面に立つと、コルチゾールの値は10〜20分間の間に2~3倍にまで増加することが分かっています。
それよりも、ストレスが、脳の視床に働いて、脳下垂体から出る副腎皮質刺激ホルモンを介して、副腎皮質ホルモンに影響を与えています。これは脳下垂体ー下垂体ー副腎連環と言います。
HPAaxisのことです。
脳にかかったストレスは、このHPAaxisを介して、副腎に影響を与え、体全体の代謝に影響を与えるということです。
少し難しい話ですが、コルチゾールは、体全身の色々な臓器に作用して、糖質や脂質、タンパク質などの代謝に影響を与えたり、血糖をあげたり、体の炎症やアレルギー反応を抑える働きがあります。
過剰なストレスがかかると、これらの様々な代謝のバランスが崩れ、体のバランスが崩れ始めるということです。
分泌バランスが大切
コルチゾールの分泌が最も多い時間帯は、朝と言われています。そして夜には少なくなり、身体の一日の活動リズムを整えてくれています。
ところが過剰なストレスがかかり、活動リズムが崩れることでコルチゾールの分泌が慢性的に増えることがあります。
すると、不眠症やうつ病などのメンタル不全や、生活習慣病などのストレス関連疾患につながるケースが多くなることが分かっています。
ストレスには、楽しいストレスもあります。たとえば旅行の前の日や、結婚式など、ワクワクするようなことであっても、心身に負荷がかかっていることに違いはありません。
そのため、いくらプラスの出来事であっても、昼夜逆転の生活が続いたりすることで、コルチゾール分泌バランスが狂うと、心身に影響が出やすくなってしまうのです。
適度な運動は、コルチゾール分泌バランスを整える
コルチゾール分泌のバランスを整えるには、有酸素運動が有効です。
日常的にサイクリングやジョギングなどの有酸素運動をしている人は、ストレスに直面したとき、運動の習慣がない人よりもコルチゾール分泌が少ないという検証結果も出ています。
有酸素運動も、心身に負荷をかけるという意味ではストレスと一緒です。また筋肉を使った運動は、酸素やエネルギーを必要とし、コルチゾール分泌が進んで鼓動が早くなり、血圧も上昇します。
これを繰り返すことで、身体は適度なストレスと、運動終了による分泌コントロールに慣れていきます。そして実際に仕事や人間関係でストレスがかかったときも、コルチゾールを適切に分泌することができ、身体のバランスが維持されるという仕組みになっているのです。
コルチゾールの働き
コルチゾールの働きは、ストレスに対抗するだけにとどまりません。
・肝臓で糖をつくり出す
・脂肪を分解して代謝促進する
・免疫抑制、抗炎症作用を持つ
・筋肉でタンパク質を代謝する
このような働きを持つ、とても有益なホルモンなのです。また強い抗炎症作用を持つため、ステロイド系の抗炎症剤としても、広く利用されています。
副腎疲労がコルチゾール分泌のバランスを崩す
コルチゾールの正常な分泌を助けるには、製造所である副腎のケアが大切です。
副腎は、左右の腎臓の上部にひとつづつある、とても小さな臓器。しかし副腎にストレスがかかってしまうと、十分な量のホルモンがつくられなくなってしまいます。
その状態を「副腎疲労」といいます。
もし以下のような症状が長く続いているなら、副腎疲労が疑われます。
・常に疲労感があり、何をするにもおっくうになる
・朝起きれない。また起きた瞬間から疲れを感じる
・寝付きが悪い、睡眠の質が下がり、熟睡できていない
・集中力が低下し、物忘れが激しくなる
・新しいことに取り組もうという意欲が低下する
・風邪を引きやすくなる
上記の症状は「疲れているから」と片付けられがちですが、肉体的疲労にとどまらず、副腎自体が疲れている可能性があります。
副腎疲労を少しでも解消し、コルチゾール分泌バランスを正常に戻すことでメンタル不調の改善も見込めるでしょう。
副腎疲労の治療
副腎疲労があると、言いようのない不安感や、倦怠感に襲われます。また朝のだるさや食欲・性欲不振、何ごとにも意欲的に取り組めなくなるなど、生活先般に大きな支障が出てしまいます。
その状態を何とかしようと、カフェインをたくさん摂ったりする人もいますが、それは単なる対症療法に過ぎません。
まずはストレスに負けない副腎を取り戻し、そのためにも副腎の回復をしっかり支えられるよう、原因に対しての治療を行うことが大切です。
副腎の状態は、「唾液中コルチゾール検査」である程度分かります。
副腎疲労が疑われるなら、「リーキーガット症候群」「腸管カンジタ症」「体内の重金属蓄積」など、副腎にストレスをかけている体内原因を探り、生活習慣の見直しと並行して治療を行うことをおすすめします。
まとめ
さまざまなストレスに囲まれて生きる人間。
心身の状態をコントロールするためにも、ストレスホルモン・コルチゾール分泌を正常に維持できるようにしましょう。
そのためにはコルチゾール製造所である副腎が元気であることが大切です。
メンタル不調、ストレスによる心身症などがある場合は、副腎疲労の可能性を視野に入れ、総合的な治療を受けてみることをおすすめします。
執筆者プロフィール
医療法人全人会理事長、総合内科専門医、医学博士。京都大学医学部卒業。天理よろづ相談所病院、京都大学附属病院消化器内科勤務を経て、2013年大阪市北区中津にて小西統合医療内科を開院。2018年9月より医療法人全人会を設立。