慢性的な疲労感や体調不良の原因をネットで探っていくと、「慢性疲労症候群」「副腎疲労症候群」というキーワードにたどり着くことがあります。
聞き慣れない言葉であり、また似てもいるため、上記2つを同じ病気だと思っている人が多いのですが、実は違うレベルの話を混同しています。
たしかに、副腎疲労が原因となって慢性疲労症候群を起こすケースはあります。しかし慢性疲労症候群を起こす原因には、副腎疲労以外にもあり得るという点に、注意が必要なのです。
似ているように見えるこのふたつの病気は、原因と結果の関係性をもち、複雑に影響しあい、身体にトラブルを起こしています。
そこで今回は、予備知識がないと区別しにくいふたつの病名、まずは違いがどこにあり、どういう関係にあるのかを解説してみましょう。
慢性疲労症候群と、副腎疲労症候群の違い
慢性疲労症状で当院を受診される方から、次のような質問を受けることがあります。
「前の病院では慢性疲労症候群と診断されました。しかしこちらの検査の結果では、副腎疲労症候群があるということですが、どちらが本当ですか?」
どちらにも「症候群」という病名がついているので、このような混乱が起こりがちです。
ふたつの病気の違いを簡単にいい表すと、以下のようになります。
慢性疲労症候群(診断名の付いた病気)
慢性疲労症候群は、明確な判断基準がある病名です。
原因不明の疲労が長期間(一般的には6カ月以上)続き、仕事や日常生活に大きな悪影響を及ぼします。
慢性的な疲れだけではなく、他の症状もともない、総合的に診断されます。甲状腺機能異常などの他の疾患が鑑別して否定されている必要があります。
副腎疲労症候群(病名ではなく、身体の状態)
それに対して副腎疲労症候群は、病名ではありません。「症候群」という名前がついているので紛らわしく感じますが、心身にさまざまなストレスがかかることで、副腎が一時的に疲労している「状態」をあらわした言葉です。
川の流れにたとえられる、「病気になるプロセス」
当院では、病気はいきなり現れるのではなく、まず先に身体のバランスが乱れた状態があると考えます。
そして、その状態が続き、年月が経て積み重なることで症状が出る流れを、「病気になるプロセス」と捉え、治療の足掛かりとしています。
「病気になるプロセス」については、当院の治療のコンセプトで説明していますので、こちらをご覧ください。
下の図では、「病気になるプロセス」に慢性疲労症候群と副腎疲労症候群を当てはめてみたものです。
プロセスの一番上流にあるのは、「病気の根本的な原因」。
ストレス、生活習慣の乱れ、その他さまざまな要因が存在しています。
しかし厄介なのは、この上流の段階では、病気がハッキリと現れてこないケースがほとんどだということです。
静かに蓄積された上流の「病気の根本的な原因」は、中流で身体バランスの乱れを引き起こします。自分では目に見えなくても、内臓などの機能低下が起きたりするのも、この中流です。
その結果、下流に流れ着いたときには、はっきりとした「病気」という状態が現れてしまうのです。
では、慢性疲労症候群と副腎疲労症候群は、「病気になるプロセス」の流れではどこに位置しているのでしょうか。
副腎疲労症候群は中流
上流にあるなんらかの原因で、身体のバランスが崩れ、副腎の機能に影響が出ている状態。プロセスでは中流に当たります。
慢性疲労症候群は、一番下流
慢性疲労症候群という、明確な病気としての診断名がつく状態は、下流に当たります。中流で起きている「副腎がうまく働いていない」状態が、慢性的で異常な疲労という病気として現れたのです。
つまり、
・中流の「副腎疲労」という状態が原因となり、慢性疲労症候群を起こすケースがある
・しかし、慢性疲労症候群を起こす原因は、副腎疲労だけではない
このプロセスの中での違いを理解せず、ふたつの病名を混同してしまうと、治療や対策があやふやになります。
中流にある、慢性疲労症候群の原因
慢性疲労症候群を起こす原因が中流にあるとしたら、中流では何が起きているのでしょうか。
たとえば、以下のような状態が推測できます。
・仕事や人間関係などのいろいろな「外的なストレス」
・遅延型フードアレルギー(リーキーガット症候群)
・カンジダ菌症
・重金属の体内への蓄積
中流にこれらの状態があると、身体のバランスは崩れていきます。そして体内の機能を低下させます。
副腎疲労症候群とは、副腎に過剰なストレスかかり、疲労してしまった「中流の状態」を指すことを覚えておきましょう。
慢性疲労症候群の改善
慢性疲労症候群は原因不明とされており、詳しくない医師に診察を受けてしまうと、気のせい・うつ病などと混同され、正しい処置を取らせてもらえないことすらあります。
しかし、原因のわからない慢性疲労症状でも、治す方法はあります。
実際の治療で実感する、「中流バランス」の大切さ
原因不明の慢性疲労症状が身体バランスの乱れから起きているとすれば、病気そのものの原因は分からなくても、バランスを整えることで原因がいつの間にか解決され、症状が改善するケースは多くあります。
実際、当院でも、身体のバランスを整える治療をしているうちに、原因不明の頭痛や身体の痛み、倦怠感が改善した患者さんは多数いらっしゃいます。
治療としては、病気になるプロセスの中流を整えているだけなのですが、中流の状態がよくなることで、下流の病気や症状の改善が進むのは、とても面白いことだと思います。
対症療法ではなく、根本治療に取り組むことの大切さ
私たちは、頭が痛ければ頭痛薬、下痢になれば下痢止め、夜眠れなければ睡眠薬を飲む…という、症状を改善する治療に慣れています。
そのような今困っている症状を改善させる治療法は、「対症療法」といわれています。
対症療法は痛みや症状を一時的にでもやわらげ、苦痛を取り除くための大切な治療ではありますが、頭痛薬で頭痛が治まっても、頭痛の原因となる身体のバランスの崩れた状態が改善されたわけではありません。
あくまで、一番下流の「痛み」という症状を、一時的に抑えているだけなのです。
それが理解できると、薬に頼り過ぎず、中流を整えることの大切さにも気付いていただけるでしょう。
慢性疲労症候群の改善は、気長に取り組まなくてはいけません。しかし身体の流れを意識して、中流にある副腎の疲労回復につとめれば、改善は決して不可能ではないのです。
慢性疲労症候群に悩み、原因が分からないことに行き詰っているのならば、中流に目を向けてみてはいかがでしょうか。
まとめ
慢性的に疲労感を覚える症状の名称として混同されがちな、「慢性疲労症候群」と「副腎疲労症候群」。
病気になるプロセスを川の流れでたとえると、慢性疲労症候群は一番下流にあり、その原因のひとつに副腎疲労症候群があるということを解説しました。
原因のわからない症状でも、諦めず、身体のバランスを整えることが根本対策になります。副腎疲労の回復は、慢性疲労症候群をはじめ、体調不良を改善してくれる可能性を持っているのです。
執筆者プロフィール
医療法人全人会理事長、総合内科専門医、医学博士。京都大学医学部卒業。天理よろづ相談所病院、京都大学附属病院消化器内科勤務を経て、2013年大阪市北区中津にて小西統合医療内科を開院。2018年9月より医療法人全人会を設立。