客観的な評価が難しいとされていたミトコンドリアの機能低下は、「有機酸尿検査」などのバイオロジカル検査である程度計測することが可能です。
慢性疲労に関しても、検査によって病態を把握し、治療に具体的に役立てられるのであれば、症状に苦しむ人にとっては朗報です。
関連記事:慢性疲労症候群とミトコンドリア機能障害① 〜検査で予測可能になりつつあるミトコンドリアの機能低下〜
ミトコンドリア機能の低下の原因は、さまざまです。多くの要因が絡まり合っていますが、「腸内環境とミトコンドリア機能」の関係は無視できません。
腸内環境とミトコンドリア機能
腸内環境には、ストレスや生活習慣などさまざまな要因が関係していますが、腸内環境が乱れ、腸内の善玉菌が減少すると、腸内の悪玉菌やカンジダ菌というカビの一種が増殖します。
腸管で増殖したカンジダ菌は「有機酸」という物質を体内に分泌させますが、これが細胞内に入ることで、ミトコンドリア機能は低下します。
また、腸管内で増殖したカンジダ菌からは腸管粘膜を溶かす物質が分泌されます。その結果、腸の粘膜が損傷を受け、「リーキーガット症候群」や「遅発型フードアレルギー」という病態が発生するのです。
参考ブログ
リーキーガットと慢性疲労症候群との関係について
遅発型フードアレルギーはどうして起こるのか?
慢性疲労の原因となる消化管カンジダ症について
さらに、腸管の粘膜は食事などの腸管内容物と、身体の中とを隔てる重要な「防波堤」の役割を果たしています。しかし「リーキーガット」によりこの防波堤が崩れると、有害な化学物質や重金属が身体の中に入ってきやすくなるのです。
腸管の防波堤を超えて体内に入った重金属は、身体の細胞内に入り込み、ミトコンドリアの機能を障害します。
また最近では、腸管上皮には、ミトコンドリア機能を低下させる有害な物質をデトックス(解毒)する機能があることも分かってきました。
慢性疲労の改善のためにミトコンドリア機能へのアプローチを考えるときは、腸内環境を無視するわけにはいかないのです。
検査で把握し、具体的な対策を
しかし、慢性疲労はさまざまな病態を含む、複雑な疾患群です。そのため単に腸内環境を改善するだけでは、解決できないでしょう。
当院での治療は、以下の要素から必要なものを適宜組み合わせて行われます。
1.副腎のサポート
2.腸内環境の整備、腸管粘膜の修復
3.消化管の消化機能のサポート
4.カンジダ菌の除菌
5.重金属の排除(キレーション)
6.ビタミン、ミネラルの補充
7.精神的なストレスに対してのカウンセリング
具体的にどのような治療を行うかは、病態によって異なります。また、治療にあてられる費用によっても変わります。
データから見る検査の有効性
ミトコンドリア機能の低下をある程度予測できる「有機酸尿検査」の結果が、治療によってどのように変化したのかを実際に提示します。
症例:50代女性
・10代の頃から疲れやすく体調不良を感じやすかった
・30代の頃にはうつと診断され、治療を受けたが、改善せず
・40代の頃からは関東の有名な統合医療クリニック数か所で治療
一時的な改善はあったようですが、納得できる結果が出ておらず、当院を受診されました。その時の有機酸尿検査のミトコンドリア機能の結果です。
コハク酸、フマル酸、クエン酸が高値を示し、リンゴ酸、オキソグルタル酸が低値を示しています。
これを見ただけでは、何が起きているか分からないと思いますので、下図に検査結果とTCAサイクルの回路を並べた図を示します。高値を示したところが流れの上流、低値を示したところが流れの下流にあたります。
図を見ると、フマル酸とリンゴ酸の間と、クエン酸とアコニチン酸との間の2カ所に、化学反応のブロックがあることが分かります。
この女性の場合は、有機酸尿検査の他の項目でもかなりの異常が認められており、ミトコンドリア機能の低下が激しいことが把握できたのとともに、今までの治療で改善の兆しが見えなかった原因も分かりました。
治療の結果
治療を進め、症状は改善傾向にありますが、満足できる改善には至っていません。またメンタル要因もあると思われ、カウンセリングも導入しました。
以下は、治療6ヶ月が経過した時点での有機酸尿検査のミトコンドリア機能の結果です。
コハク酸やクエン酸はまだ高値ですが、全体的にはバランスが戻っていることが分かります。他の検査項目でも改善が認められていました。
これらの検査結果から、ミトコンドリア機能についてはさらに改善の余地があると考え、カウンセリングとキレーション治療の継続が決まりました。
このように、必要な検査を行えば、今までは捉えどころのなかった「慢性疲労」という症状を数値化し、客観化しながら治療を行うことが可能です。効果の判定もしやすく、治療方針が立てやすいのは大きなメリットです。
ミトコンドリア機能が高まれば、身体機能がうまく作動する
慢性疲労は単純な病態ではなく、本人も自分のどこが悪いのかを理解しきれないことがあります。また他人から見ても、やる気のなさを指摘されたり、もしくは自律神経失調症やうつ病ではないか?と捉えられ、対応が難しいのが現状です。
ミトコンドリアは全身の細胞にある機能ですから、身体の一か所だけ見て治療をしても改善が見込めないのは当然です。しかしミトコンドリア機能が向上すると身体機能全体がうまく作動するようになるため、慢性疲労を始め、メンタル面や他の体調不良にもよい影響を及ぼすでしょう。
当院では、有機酸尿検査以外の「バイオロジカル検査」も導入しています。これらの検査の適応と思われるケースを示します。
当院におけるバイオロジカル検査の適応
① 慢性疲労の患者
→ 慢性疲労症候群
→ 起立性調節障害
→ 副腎疲労症候群
② 抗がん剤を用いないがん治療
③ 自閉症スペクトラム、発達障害
④ アトピー性皮膚炎、難治性アレルギー疾患
⑤ うつ病
⑥ その他
このように、腸内環境を整えるだけでなく、身体のデトックス機能やミトコンドリア機能を高める医療を提案しています。根本的な改善を行い、身体のバランスを取り戻し、自己治癒力を高めることが必要です。
まとめ
ミトコンドリア機能の低下は、自分で判断することはできません。有機酸尿検査などのバイオロジカル検査を行い、身体のデトックス能力などを把握することから始めてください。体内で何が起きているかを数値で理解できれば、適切な治療方針が立てられます。その上で自己治癒力を高めるアプローチに取り組めば、慢性疲労以外の体調不良の改善も期待できるでしょう。
執筆者プロフィール
医療法人全人会理事長、総合内科専門医、医学博士。京都大学医学部卒業。天理よろづ相談所病院、京都大学附属病院消化器内科勤務を経て、2013年大阪市北区中津にて小西統合医療内科を開院。2018年9月より医療法人全人会を設立。