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[コラム] 小麦は本当に「食べてはいけない!」のか?

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小麦アレルギーの情報に向き合うヒント

書籍やテレビで、小麦アレルギーに関する情報を目にする機会が増えました。ネットでも、「グルテンフリー」「小麦アレルギー」というキーワードでの検索は、予想以上に多いようです。

しかし、ネット上の情報には、やたらに恐怖心を煽るような記事が多くみられます。それらは客観的なようでいて、実は「情報操作」されており、偏った考え方へ誘導されているケースも少なくありません。

小麦アレルギーの方は、より正確で役に立つ情報を求めているはずです。本やネットの情報を、むやみに信じてしまうのは早計です。
今回は、小麦アレルギーの情報をどう取捨選択するかについて、お話します。

「小麦は食べるな」という書籍

「小麦は食べるな」という本をご存知でしょうか。
小麦についてのネガティブな情報がまとめられており、そのセンセーショナルな題名から、話題になりました。

著者が「小麦は食べてはいけない」という根拠は、主に以下の2つに分けられます。

  1.  遺伝子組み換え技術で改造された現代の小麦は、血糖を上昇させる作用が強い。血糖が高い状態が続くとインスリン抵抗性を起こし、体を「老化」させる。
  2.  現代の小麦には「グルテン」が多量に含まれており、体内に入れば、精神疾患や糖尿病、肥満、心臓疾患、リウマチなどの自己免疫疾患などの原因になる。

上記2つの説を軸に、小麦アレルギーの情報を読み解いてきましょう。

遺伝子組み換え小麦の「毒性」は明確になっていない

「遺伝子組み換え」という単語にはネガティブなイメージがつきまといます。よく分からないけれど、危険な気がする…と思っている方も多いでしょう。一般人の「不安感」を煽るのには成功していると思います。しかし、結局は、「遺伝子組み換え小麦」に何か毒性が確認されたのかというと、具体的な指摘は見当たりません。

私の知る限り、遺伝子組み替え小麦に、どのような毒性があるのかを具体的に示したデータはありません。
もちろん情報は日々更新されます。そのような研究結果が出たのならば、すぐに知りたいところです。

本の中でも「これだけ遺伝子を組み換えたのに、人体への影響に関しては一切検証がなされていない」と指摘されています。今の段階では、私もそれには同意です。安全性への検証は今後も徹底して行うべきですが、現時点で、危険性が明確に示されているわけではないようです。

本当に血糖値を上昇させるのか?

著者が唯一具体例としてあげているのが、「遺伝子組み換え小麦は、血糖を上昇させる作用が古代の小麦よりも高い」という実験結果です。

これについては、著者自身が人体実験を行い、古代小麦と遺伝子組み換え小麦とを食べ比べて、その前後でそれぞれ血糖の上昇度合いを測定しています。実験では、古代小麦を食べたときにはそれほど上昇しなかった血糖が、遺伝子組み換え小麦はかなり高く上昇し、著者自身、食べた後に気分が悪くなり嘔吐したと書かれています。

これは、実際の実験で検証しているので、価値のある情報でしょう。科学者は常にこのような態度を持たなければいけません。実験の結果から、作業仮説として「遺伝子組み換え技術を導入された現代の小麦は、血糖上昇作用が高い」が成り立ちます。

しかし、実際に小麦アレルギーで苦しんでおられる人は、この説を「作業仮説ではなく、証明された真実だ」と思いたいでしょう。現実にあるアレルギーの苦しみの原因が分かれば、心理的にとても楽になるからです。そういう意味ではこの本は、バイブルのような本かもしれません。

視野を狭くしてはいけない

アレルギーの原因を特定したい方の気持ちは、よく理解できます。しかし、少し待ってください。
毎日パンを食べている人が、すべて糖尿病になるでしょうか?
あるいは、毎日パンばかり食べている人が、すべて肥満しているでしょうか?
パン好きな人は、毎朝パンを食べた後に、気分が悪くなって嘔吐をしているでしょうか?

私にはとてもそのようには思えません。
私の周りにも、パンが大好きという人はたくさんいますが、毎日パンを食べ、元気に毎日を送っている人も、たくさんいるからです。

情報はとても重要です。しかし、ひとつの情報に振り回され、視野を狭くしてしまっては、治るものも治らなくなってしまうでしょう。

著者は自ら、自分自身が小麦アレルギーを持っていると書いています。小麦アレルギーの人と、そうでない人とでは、小麦を食べた後の血糖上昇効果が違う可能性を無視してはいけません。科学的に考えれば、そういう仮説にたどり着くのではないでしょうか。

小麦アレルギーのある人のマイクロバイオーター

小麦アレルギーをどう捉えるかでは、このサイトで幾度も書いている「マイクロバイオーター」の働きが重要になってきます。
マイクロバイオーターについては別のコラムを参照ください


参照コラム

[コラム] 忘れられた器官マイクロバイオーター① 〜 栄養学の常識をくつがえす、未知の役割とは〜
[コラム] 慢性疲労症候群とミトコンドリア機能障害② 〜腸内環境とのかかわりと、具体的な治療の事例紹介〜

私たちの健康は、腸内に共生しているマイクロバイオーターの状態によって変化します。
マウスの実験ですが、2つの異なるマイクロバイオーターを持つグループで比較したところ、全く同じものを食べさせていても、肥満になり糖尿病になりやすかったグループと、肥満にも糖尿病にもならなかったグループに分かれました。
最近では、「痩せ菌、デブ菌」という言葉も使われており、ご存知の方もいらっしゃるかもしれません。

つまり、小麦アレルギーや小麦を食べた後の血糖の上昇のしやすさは、それぞれの人の持つマイクロバイオーターの状態に左右される可能性が高いのです。

あるいは、遺伝的素因で血糖の上がりやすい人と上がりにくい人とがいるのは、間違いないでしょう。

「遺伝子組み換え技術を導入された現代の小麦は、血糖上昇作用が高い」という作業仮説は、確かに著者を含めた一部のグループには真実であっても、それがすべての人に当てはまるとは限りません。それを詳しく検証するのが、科学であると思います。どのグループには当てはまり、どのグループには当てはまらないのかをきっちりと区別する実験を繰り返し、科学は進歩するのです。

その検証を行わず、ひとりの経験で、小麦を食べた人はすべて糖尿病になってしまうかのような不安をあおる書き方は、科学者としてあるべきではないと私は思います。

「小麦はあらゆる病気の原因」という情報のあやうさ

著者の2番目の主張はどうでしょうか。これについても同様です。統合失調などの精神疾患や過敏性腸炎、糖尿病、認知症、皮膚疾患などの疾患が、小麦の制限でよくなった例がいくつも挙げられています。

小麦が原因となるさまざまな症状は、私もたくさん見てきました。そして患者さんの中には、小麦を制限するだけで症状がかなり改善する人がいるのは事実です。医療関係者はその事実を知り、もっと治療に役立てるべきでしょう。

しかしとても残念なのは、小麦がすべての病気の原因であるかのような書き方がされていることです。もちろん著者も、そこまでは思っていなく、極端に断言した方が訴求力が強いと考えたのかもしれません。マーケティング的に見ても、その方が本は売れるでしょうから。(実際に、この本はかなり売れたようです)

病気は、複合的な要因の積み重ね

本に書いてある内容をすべて信じてしまうと、恐ろしくて、明日からパンを食べることができなくなるでしょう。それほど、「これでもか、これでもか」と小麦が悪魔の食べ物のように表現され、医学的知識のない人が読むと信じても仕方がないくらい、説得力がある本なのです。

小麦が原因となる疾患があることも、小麦が原因で体調を崩している人がいることも事実です。

ただ、小麦で何の問題もない人がいるのも、事実です。これも、恐らくはマイクロバイオーターや遺伝的素因などが関連しているのでしょう。

病気は、ひとつの理由だけでは起こりません。複数の要因の積み重ねです。「小麦を食べている人は、小腸原発の非ホジキンリンパ腫になりやすい」という内容が書かれていましたが、小腸原発のリンパ腫なんて一般の内科医が一生のうちに1例見るかどうか、学会の地方会で症例発表できるくらい珍しい病気なのです。著者に悪意はないと信じたいですが、医学的知識がない人が読むとどうなるかを考えて欲しかったと思います。

小麦アレルギーの治療と、自助努力

小麦アレルギーの治療法は、これから見つかっていくはずです。研究が進むにつれて、小麦アレルギーの人に特徴的なマイクロバイオーターが発見されていく可能性は高いでしょう。小麦アレルギーの患者さんの便を集め、すべてのゲノム解析を行えばいいのです。

それを待たずしても、自分のマイクロバイオーターを整える努力は、自分自身でできるはずです。当院でも腸内環境の改善によって小麦アレルギーを治した方は、数え切れないくらいおられます。小麦アレルギーに振り回されるのではなく、その奥にある本当の原因を見極めましょう。
根本的な問題が解決できたら、小麦を食べたくらいでは反応の出ない身体が手に入ります。

恐怖心や不安感を煽られるような情報に惑わされず、科学的な視点で問題に向き合いましょう。そして諦めずに希望を持ってください。小麦アレルギーは不治の病ではありません。

まとめ

「小麦は食べるな」というセンセーショナルな題名の本には、著者自身の実験結果も含め、多くの情報が書かれています。有益な情報も含まれていますが、ただしすべて信じてしまうには、偏った内容であると言わざるを得ません。

小麦アレルギーの症状の強さや、原因は、その人の持つマイクロバイオーターの状態によるところが大きいといえます。それはマウスの実験などで、明らかになってきています。つまり、小麦アレルギーは単に一つの原因で起こっているのではないということです。個人によって千差万別な腸内環境という要素を差し置いて、「小麦は悪だ」と言い切るのは早計ではないでしょうか。

小麦を食べても問題のない人もいるという事実を見据え、自分自身のマイクロバイオーターを整える努力をしてみましょう。根本的な原因が解決できれば、アレルギーの改善も可能です。
実際に、腸内環境を整え自分自身の体のバランスを整えることで、小麦を食べた時に起こっていた症状が、全く改善したという患者さんが当院にもたくさんおられるのです。



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