小麦アレルギーの子どものための「米粉パン」を始め、グルテンフリーを目指す人のための食材が気軽に手に入るようになりました。一部の人の問題だった小麦アレルギーが、一般化し、重篤な症状ではなくても「小麦を控えた方がいい」という風潮が強くなっています。
美容と健康の目的で「グルテンフリー」「小麦フリー」を目指す方の増加からも分かるように、小麦を控える人の目的はさまざまです。
今回は、その中でも「グルテンをやめようとは思っていないが、グルテンや小麦が含まれた食事をすると、どうも体調が悪くなる」といった方の治療の考え方を解説します。
小麦アレルギーは子どものときにかかるもの?
「小麦アレルギー」の症状は、広範囲にわたります。
蕁麻疹、かゆみなどの皮膚症状や下痢、腹痛などの胃腸症状。また、くしゃみ、鼻水といった耳鼻科的症状、喘息や呼吸困難などの呼吸器症状などをはじめ、いきなり呼吸ができなくなったり血圧が下がったりする「アナフィラキシーショック」を起こす場合もあります。
子どもの場合、胃腸の消化吸収機能がまだ十分に備わっておらず、小麦に含まれる成分をきちんと分解できません。そのため小麦アレルギーなどの食物アレルギーを引き起こしやすいのです。
通常は、成長につれ次第に消化吸収機能が備わり、自然に改善していきますが、大人になっても胃腸の消化吸収機能が十分でない場合、さまざまな食材に対してアレルギー反応を起こすケースが見受けられます。
大人になってから、急に小麦アレルギーが発症するケースもあります。
大人の場合は、小麦が原因であるとはすぐに認識されません。急な体調不良の原因が、「昨日まで当たり前に食べていたパン」だとは、すぐには気付きにくいからです。
どちらにしても重要なのは、食物アレルギーの原因はその「食べ物」自体ではなく、食べ物を消化・分解・吸収する胃腸の機能不全にあることです。このメカニズムを理解しておかないと、アレルギーの治療の可能性が狭まってしまうでしょう。
小麦自体がアレルギーの原因ではないことは、小麦アレルギーを持った子どもが、成人するにつれて改善する多くの事例からも分かります。
小麦の除去は、対症療法にしかならない
小麦アレルギーを治すためには、胃腸の機能を整えなくてはいけません。
一般的なフードアレルギーの治療では、アレルギー反応が起こっているかどうかを(即時型)アレルギー検査で調べ、反応がある食物を除去します。しばらく食べない期間をつくり、食事制限で様子をみるという方法です。
あるいは、減感作療法といって、アレルギー反応のある物質を極少量ずつ注射して、徐々に体を慣らしていくという方法もあります。
しかし、食物の除去や注射で慣らしていくだけで、胃腸の機能自体が整うわけではありません。その場合、小麦の再開でまた同じようなアレルギー症状が起きるケースもよくあります。症状が強い場合、一時的な小麦の除去はやむを得ませんが、それはあくまで対症療法です。根本的原因である「胃腸の機能改善」という視点は、入っていません。
小麦アレルギーの状態を調べるためには?
では、胃腸の機能低下はどのように調べたらよいでしょうか。
通常の病院では、小麦アレルギーに対しては、小麦の即時型アレルギー反応があるかどうかを調べることしかできません。アレルギーの数値を見て「小麦がアレルゲンだ」と推測ができても、先に書いたように、一時的に食べないようにして、経過を見守るしかないのです。
それ以上に、胃腸の機能や腸管粘膜の状態を知るための検査としては、「遅延型フードアレルギー検査」があります。
この「遅延型フードアレルギー検査」では、単に遅延型フードアレルギーかどうかを知れるだけではなく、その原因となっている腸内環境の乱れた状態(リーキーガット症候群)の程度が測れます。そして、リーキーガット症候群の程度や状態が分かれば、胃腸の状態や機能を整えるにはどうしたらいいか、具体的な治療方針が立てやすくなるのです。
次に示すのは、30代男性の遅発型フードアレルギー検査の結果です。
このデータからは、単に小麦や大麦、グルテンなどに対する強いアレルギー反応が分かるだけではなく、腸内環境の悪化も疑われます。いくら食事から小麦を除去したとしても、腸内環境の改善を行わない限り、次に小麦を食べたら、またアレルギー症状が起きるでしょう。
乳製品や小麦製品に限りませんが、アレルギー反応の出ている食材を単に「制限」するのではなく、その根本原因である腸内環境を整え、リーキーガットを修復する治療が重要です。
そして、正しく根本治療を行えば、遅発型フードアレルギーは、自然と改善します。
小麦アレルギーの根本的治療
今まで多くフードアレルギーの患者さんに接してきましたが、「食事療法・食事制限を繰り返しても、なかなかアレルギー症状が改善しなかった」という声をよくお聞きします。食事制限がつらくて、余計にストレスを抱える方も、数知れずいらっしゃいます。
私は、「食事制限」はあくまで目先の症状を改善するための「緊急避難的治療」であり、決して「根本的な治療」ではないと思っています。私の考えている「根本治療」とは、これらのフードアレルギーの原因になっているリーキーガットの治療であり、さらにはリーキーガットの根本原因である心身ストレスの改善です。
ネットには、「小麦は悪者だ」とか「小麦を食べてはいけない」という恐怖心を呼び起こすような情報が溢れています。もちろん小麦の弊害については、もっともな理由も存在するでしょう。
しかし、正しい知識をもとに自分の意思で小麦やグルテンを摂らないように気を付けるのと、少しでも食べてしまうと体調が悪くなるのとでは状況が大きく異なります。小麦アレルギーの症状は、単に小麦を食べるのがいいとか悪いとかいう、単純な価値判断の問題ではないのです。
健康とは、何を食べても体調が悪くなることのない状態です。「小麦をやめていたら元気」という状態を、健康とはいいません。
まずは正しく健康になり、そのうえで、どのような食材が自分のためになるのかを判断できれば、病気になる人は減るはずです。
小麦アレルギーに限らず、ものごとを一面的に判断せずに、多面的に考えてみましょう。そこに、体調不良の改善のヒントが隠されています。
まとめ
子どものときに小麦アレルギーだった方が、成長とともに改善する事例が多くあるように、「小麦=必ずアレルギー症状が出る食材」ではありません。小麦に限らず、フードアレルギーは食材そのものではなく、その食材に過敏に反応する胃腸の機能不全からきているケースが多いのです。
胃腸の機能の状態は、「遅延型フードアレルギー検査」である程度把握できます。何を食べても過剰反応しないよう腸内環境を整えることで、治療の方針が立てやすくなり、根本的な解決に向かえます。
アレルギーというと「食べない」という選択肢を選びがちですが、注目すべきは「食べても大丈夫な強い胃腸」です。
小麦は決して悪者ではありません。根本的治療を行えば、長く患っていた小麦アレルギーであっても、改善できる可能性はあるのです。
執筆者プロフィール
医療法人全人会理事長、総合内科専門医、医学博士。京都大学医学部卒業。天理よろづ相談所病院、京都大学附属病院消化器内科勤務を経て、2013年大阪市北区中津にて小西統合医療内科を開院。2018年9月より医療法人全人会を設立。